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 ★2022年ムロオ関西大学ラグビーAリーグ第6節。関学戦。

11月19日(土)。午前11時45分キックオフ。晴れ/北風。神戸ユニバー記念競技場(兵庫県)。

 最終スコア=30-26(前半10-7)。4T2G2PG×4T3G。POM=池澤佑尽。

 ※関大は6節終了段階で1勝5敗。勝ち点6の8位。

 

 

 

 

 

 劇的な今季初勝利だった。それも伝統の関関戦である。スポーツ新聞の見出し担当なら「サヨナラ逆転トライ」で取る。

 

 関学に3連続でトライを奪われ、25-26と逆転された。脚の速い選手たちが必死にチャージに行く。できることはやった。ただ、ゴールキックは成功。1点がのしかかる。

 

 試合再開のキックオフ。スコアボードの時計は43分38秒を示していた。それ以前にロスタイムは「5分」のアナウンスがあった。インプレーは1分ほどしかない。

 

 蹴られたボールを確保した関学は自陣からハイパントで脱出を図る。このキックを関大はノックオンする。絶体絶命だ。ところが、スクラム有利の関学がコラプシング。さらにノット・ロール・アウエーと連続で反則を犯す。関大はペナルティーのキック2本でインゴールまで20メートルほどに迫る。

 

 関大はラインアウトモールを押す。アドバンテージを得て、展開。SO池澤佑尽がモールサイドの左にコースを切る。押しに注力していた内側の関学FWは反応が遅れる。

 

 「最初は自分よりひとつ外の人間にボールを預けるつもりでした。でも、そこにプレッシャーを感じました。その時、内側にギャップを見つけました。それで仕掛けたのです」

 

 外への展開を予測した関学BKもついていけない。内からさらに内、外と小刻みにステップを踏み、2人をかわす。そのままインゴールに飛び込んだ。歓喜の輪ができる。CTB澤口飛翔は両手を高々と天に突き上げた。

 

 池澤は会見で言った。

 「最高の一言です」

 POM(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)に初選出の司令塔は満面の笑み。前節、6点差負けをした摂南戦から中5日のショート・ウィークを制した。

 


 終わって振り返れば、この試合のキーワードは、「諦めない」だった。前半最後の攻撃で池澤はゴール前に短いパントを上げた。若干、深めだった。しかし、SH末井健将はパスアウトをしたあと、斜めに猛スピードでボールを追いかける。そして、バウンドは戻る。胸にすっぽり収まる。そのまま最終ラインを超える。10-7。前半をリードして終わる。

 

 池澤に訊いてみた。

 あれはボールが戻ってくるように狙って蹴ったの?

 「いえ、たまたまです」

 池澤のひらめきに、同期の末井が呼応する。結果を考えず、基本に忠実に夢中に走る。そうすると、こういうことが起りうる。

 

 この日も摂南戦と同様、狙うべきところでPGを選択した。セオリーに反しない。前半18分は3-0と先制となり、後半27分には25-7とこの日のリードを最大の18点に広げた。トライ数が4本ずつのイーブンだったことを考えれば、結果的にこの2本のPGが効いたことになる。

 

 主将のNO8池原自恩もセオリーに従う。前半は風下だった。試合のあった神戸ユニバー記念競技場はこの時期、基本的にスコアボードの方から北風が吹く。

「最初のコイントスで負けました」

 勝っていれば風上を取っていた。

 

 あえて、「前半は風下で耐え、後半一気にいく」という指導者もいるが、おすすめはできない。風はいつ止まるか、いつ向きが変わるかわからない。コイントスで勝てば、風上。伸びるキックで楽に敵陣に入り、スコアを重ねる。その鉄則を池原も実践しようとした。

 

 ちゃんとした手順を踏む、ないしは踏む方向に舵を切れば、勝利の女神はほほ笑んでくれるということである。

 

 この日、関学はどんよりしていた。キックオフ直後のタッチキックにはキレがなく、距離を戻せなかった。なんとなく試合が始まり、蹴り出した感じだった。

「今日のウチはひたむきさがなかった」

 ある関学のOBもそう見ていた。

 

 関学の選手たちの心の片隅に「負けはしないだろう」という思いがなかったか。

 

 関関戦は今年3回目。関大は1分1敗と分はよくなかった。5月29日の定期戦は35-35。7月2日の春季トーナメント順位決定戦(7、8位)は22-38だった。関学は前節まで3勝2敗、勝ち点13の3位。自力での大学選手権出場が見えていた。対して関大は5戦全敗、最下位8位だった。

 

 ヘッドコーチの園田晃将は言った。

「指導者はそんなことはありません。でも学生は難しいですね」

 この世の中に絶対はない。園田は知っている。学生は大人と子供が入り混じる。精神的な揺れ幅は社会人より大きい。紺白ジャージーの指導は10年目。自分がプレーした宗像サニックス時代のプロたちとは違うことを理解している。

 

 学生の指導は園田の言う通り難しい。

 


 関学にとっては出鼻をくじかれた部分もある。前半2分のコラプシングから数えたら5連続のスクラム系の反則。関大は一方的にやられた。5本目はアドバンテージが出て、シンビンによる10分間の一時退場者を出したが、認定トライでもおかしくはなかった。そうなれば、関学は勢いづき、結果はまた違ったものになっていただろう。

 

 フロントロー2人がハーフタイムに珍しくレフリーと長く話し合っていたことや最後の連続反則の笛もすべて受け入れた上で、関学監督の小樋山樹(しげる)は言った。

「レフリングは難しい。ラグビーはどっちに転ぶか分からないプレーの連続ですから。今日は関大の素晴らしい粘りに負けました」

 小樋山は母校・関学でSOとしてプレー。栗田工業からNTTドコモに移った。

 

 ライバルを率いる将のこの言葉を胸に刻みたい。いつ逆の立場になるかわからない。きつい敗戦にも潔くありたい。

 

 その関学から関大は初勝利を挙げる。しかしながら、喜ぶのはまだ早い。順位は最下位のまま。入替戦出場の可能性は大いに残る。浮かれることなく、12月3日、リーグ最終戦の立命戦に臨みたい。

 

 この世の中に絶対はない。ただ、絶対を信じないものには諦めが早く訪れる。諦めるのは、生を閉じる最後の一瞬でよい。

 

 




◆関学戦先発メンバー

1宮内慶大(東福岡②)

2今井虎太郎(尾道④)

3細矢一颯(関大北陽③)

4中薗拓海(関大北陽③)

5中村豪(常翔学園①)

6奥平一磨呂(東海大仰星①)

7岩崎友哉(関大北陽③)

8池原自恩(関大一❹)

9末井健将(報徳学園③)

10池澤佑尽(東福岡③)

11大西俊一朗(関大北陽④)

12藤原悠(大阪桐蔭④)

13澤口飛翔(御所実③)

14三宅怜(関大北陽④)

15遠藤亮真(東福岡①)

◇入替 後半0分=今井→垣本大斗(石見智翠館③)、中村→福島蒼(大産大附④)、末井→溝渕元気(大産大附③)。同43分=大西→石川海翔(大産大附②)。※白抜き数字は主将。

 

            (文責:鎮 勝也)

 ★2022年ムロオ関西大学ラグビーAリーグ第5節。摂南大戦。

11月13日(日)。午前11時45分キックオフ。雨/無風。神戸ユニバー記念競技場(兵庫県)。

 最終スコア=18-24(前半8-10)。2T1G2PG×4T2G。

 ※関大は5節終了段階で0勝5敗。勝ち点2の8位。





 関大の今季初の関西リーグ白星は雨に流されて行った。


 後半25分、SO池澤佑尽が短いパントを上げた。ライン裏でCTB澤口飛翔が捕球。そのままインゴールに飛び込んだ。





 池澤のゴールキックも決まり18-17。PGの先制を除き、この日初めて摂南大をリードする。紫の小旗を打ち振られる応援席は一気に盛り上がった。


 しかし、その後、摂南大自慢の外国人留学生、CTBアミニアシ・ショーにトライラインを超えられる。リードはわずか5分間。この直前のスクラムで摂南大にアドバンテージが発生していた。関大は辛抱しきれず首を抜く。落胆したところを一気に突かれた。


 関大にはラスト1プレーでチャンスはあった。ペナルティーキックからのラインアウトを得る。ところが、投入されたボールは抜けてしまう。摂南大はこのボールを得て、外に蹴り出す。その前にも同じミスがあった。


 最終スコアは18-24。リーグ戦4連敗同士による対決で勝てなかった。7点差以内の負けによる勝ち点1は手に入れたが、総計は2。前節の7位から最下位8位に沈んだ。シーズン前の目標、大学選手権出場もなくなった。


 関大はこの日、雨に泣いた。運がなかった。ボールも天然芝も滑る。持ち前の展開力は削られてしまう。


 雨の日の戦い方は基本的に3点ある。

①できるだけ長いパスやラインアウトのスローイングを使わない。

②キックを増やす。

③FW中心で攻める。


 今のボールはゴムになり、細かい突起がついて投げやすくなった。それでも晴れの時とは比べものにならないほどスリップする。40年ほど前、ゴム製が出る前は牛革のボールだった。これだと雨を吸って強烈に重くなる。自然、パスの距離は限定される。


 PG成功で11-17と追い上げた後半12分、飛ばしパスがノックオン。後半、早い時間帯での反撃ムードは潰える。BKの選手はラインの距離を「心もち短くしていました」と答えたが、それでもミスは起る。また、最後のラインアウトも、ロングまでとはいかないまでも長めのスローイングだった。


 雨用タイヤがあるように、ラインも雨用に短く、その分、深くしないといけない。深ければ、お手玉をしても合わせられるポイントは残る。ラインアウトもできるだけ前で合わせる。人数を減らし、前後への動きやボール投入者と捕球者とのタイミングでマイボールを確保する。それを練習する。


 キックの多用は、ミスを少なくするためである。雨でボールは手につきにくい。この試合、関大もハイパントなどで前進を図った。





 ただ、蹴り合いになった時のキッカーは池澤ひとり。逆に摂南大はSO大津直人、FB前薗斗真と2人を備える。しかも、利き足は右と左。グラウンドの横幅70メートルを摂南大は2人、関大は1人で守らなければならない。池澤にかかる負担は大きかった。


 雨の日は普段以上にキック合戦になる。キッカーは2枚ほしい。逆に言えば、キックができれば、雨の日は特に公式戦出場の機会は増える。補欠の人間はそこを磨きたい。


 そして、雨の日はFWの出番が多くなる。パスを減らしながら、ボール保持しなければならないからである。前8人によるパスは手渡し、あるいはきわめて短いものになる。


 摂南大はNO8ヴィリアミ・ルトゥア・アホフォノ、LOヴェティ・トゥポウ、前半7分にトライを挙げたFL森山迅都らラインブレイクができる選手がいた。関大で対抗できるのはNO8池原自恩くらいか。ボールを散らせればよいが、それが出来ない雨の時は素のFW力が表に現れる。


 この試合も落胆の結果になったが、良化している部分がなかったわけではない。


 狙うべきところでPGを選択した。前半4分は3-0と先制となり、後半10分は11-17と1本のトライとゴールキックで逆転できる位置につけた。この時、1年生FBの遠藤亮真はさかんにゴールポストを示し、タッチラインアウトからのトライではない、ということをアピールした。ラインアウトをとれば、スローイングや捕球でミスが起こる可能性がある。トライ数が2対4だったことを考え合わせれば、この6点は大きい。


 3人の外国人留学生対策も、決勝トライこそ奪われたものの、それなりにはできていた。走り出しを狙う、ということである。

 「外国人留学生は動き出したら止まらない。できるだけ間合いをつめてタックルする」

 記虎敏和の言葉である。記虎は2000年初め、啓光学園(現・常翔啓光)を率いて、高校全国大会4連覇を達成した。ライバルだった正智深谷には外国人留学生たちがいた。


 劣勢が予想されたスクラムも、ダイレクトフッキングで池原がボールを拾い、BKに展開する形を見せた。できるだけスクラムに時間をかけず、体力の消耗を防ぐ。SHがそのボールを拾い、飛びながら投げるダイビングパスという手もある。半世紀前の日本ラグビーでは普通の光景だった。


 最後に小さいことだが、書き添えたい。関大は大事なシーンで、ゴールキックのチャージに行かなかった。インゴールから飛び出さなかった。後半30分、決勝トライを奪われた後、円陣を組んだままだった。


 再逆転に向け、意思統一を図るのは必要だ。しかし、それは短い言葉、指示でよい。ゴールキックを当てて妨げたら、その選手はチームに2点をもたらす、あるいは防いだことになる。トライを獲られたからといって、諦めてはダメだ。悪あがきをしないといけない。


 この試合なら、スコアは18-22。ゴールキックに頼らず、トライのみで勝ち切ることができた。勝てないチームはそういう細かいことを積み上げていかないといけない。3点のPG選択もまたしかり。得点の可能性を高める。その連続が白星を引き寄せるのである。





◇摂南大戦先発メンバー

1宮内慶大(東福岡②)

2垣本大斗(石見智翠館③)

3細矢一颯(関大北陽③)

4中薗拓海(関大北陽③)

5福島蒼(大産大附④)

6奥平一磨呂(東海大仰星①)

7末長武尊(東福岡④)

8池原自恩(関大一❹)

9溝渕元気(大産大附③)

10池澤佑尽(東福岡③)

11大西俊一朗(関大北陽④)

12藤原悠(大阪桐蔭④)

13澤口飛翔(御所実③)

14三宅怜(関大北陽④)

15遠藤亮真(東福岡①)

◇入替 後半23分=垣本→今井虎太郎(尾道④)、末長→岩崎友哉(関大北陽③)。同31分=奥平→中村豪(常翔学園①)※白抜き数字は主将。


(文責:鎮勝也)

 なんのためにラグビーをやるのか。


 今、関大ラグビー部の諸君に問いたい。


 好きだから。

 楽しいから。


 主はこの類であろう。


 では、なぜ体育会で続けるのか。


 サークルや学外のクラブもある。楽しさなどを追うのなら草ラグビーの方がよい。


 体育会に所属するということは、強さを追求することだ。レギュラーを獲る。選手権を目指す。頂点に立つ。それらを分かって切磋琢磨している選手が何人いるだろうか。


 10月16日、京産大戦直前の練習を見た。トレーナーから「セルフアップ」の声がかかる。主将の池原自恩は他の選手と群れることなく、少し前を見つめ、黙々とジョグを繰り返していた。試合が迫る中で、ふさわしい準備をしているのは彼だけに見えた。



 試合の結果は15-99。この失点は関西Aリーグにおけるチームワースト2位。4年前の天理大戦の116に次ぐ。この2018年は7戦全敗で8位。入替戦で摂南大に29-31と競り負け、Bリーグに降格した。今の4年生が入学前、高3の時の話である。


 これらを踏まえて、3つめの問いを投げかけたい。


 体育会所属の選手として本気で試合に勝とうと思っているのか。


 今季は開幕4連敗。すべて昨年の上位チームであり、ある意味、仕方のない部分はある。それでも本来の戦いぶりを見せたのは同大戦の1点差負けのみ。あとは60点差以上をつけられている。


 関大には専用寮がない。三度三度の食事も出ない。副顧問の桑原久佳は必死に環境改善に挑んでいるが、成績の出ない1クラブを特別に扱うことは難しい。その中で同じように寮なしでやっている野球部が明治神宮大会に出場する。秋の学生日本一を決める大会だ。関関同立など6校からなる関西学生リーグとそれに続く出場トーナメントを制した。


 世間にはそれぞれの家庭があるように、クラブもそれぞれ違う。その中で知恵を絞り、自分を律して取り組む。その差を感じて投げ出すなら、最初から体育会でラグビーをやらない方がいい。


 今のクラブ活動は大学主導になった。そのため、関大も他の関西リーグの7校も平日の練習開始時間は夕方。授業が終わってからだ。練習時間もそう変わらない。その中でバックアップに劣る関大はどうしていくのか。


 繰り返しになるが、個々の取り組みしかないのではないか。朝や昼休み、授業の空き時間はどう過ごしているのか。オフの日は。支援が手厚いチームに勝つには24時間365日、ラグビーのことを考え、実践すべきだろう。それは長い人生のたった4年である。





 お手本はいる。先輩の竹中太一だ。竹中は本気でトップレベルの選手になろうとした。体も170センチほど。リーグ戦の最高は4位。夢は一度は潰えた。それでも、諦めなかった。


 ニュージーランドに渡る。バイトをして生活費を稼ぎ、トレーニングを続けた。ついに昨年、サニックスが声をかけた。廃部後は、三重ホンダが話を持ってきてくれた。リーグワンでの戦いは三部から二部に上がった。


 先ごろ、講談社から『平尾誠二さんのこと』という本が出版された。著者の藪木宏之は神戸製鋼で、この「ミスター・ラグビー」と呼ばれた平尾に出会い、教えを受け、SOとしてその才能を開花させた。平尾は自分が属した日本代表や神戸製鋼の監督を歴任した。


 この本の中で、平尾が藪木に問う。

<総理大臣になる人はどんな人かわかるか>

藪木は分からない。平尾は答える。

<総理大臣に絶対なる、なってやる、と思っている人や。誰よりもその思いが強い人や。だから、俺は総理大臣になれない。なぜなら、なりたいと思っていないからや>


 勝ってやる、と本気で思えば、日々の生活はそれに添ってゆく。補欠の者は正選手になることを本気で目指す。そうなればチーム内闘争が生まれ、結果的にチーム力を上げることになる。


 関大の創部は1923年(大正12)。今、関西Aリーグ8チームの中で、それより古いのは12年前に作られた同大だけである。1954年(昭和29)、関西リーグの原型である同大、関学、立命、京大のオリジナル4に加わる。来年は創部100周年である。


 その歴史を胸に秘めて戦いたい。この関大は本気でやるのにふさわしいチームである。

「大学時代はラグビーをやってきました」

そう他人に胸を張って言えるように、本気でやろう。日々の練習に、自分が出る試合に、意地と誇りをぶつけよう。この2022年のシーズンはもう1か月ほどで終わる。大学の4年間以上にわずかである。


 本気で行動する者の前にのみ人生は開かれる。

           

 (文責:鎮 勝也)

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